理窓 2017年1月号
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17・1 理窓21率が上昇しており、妊娠・出産年齢の人たちを取り巻く労働環境を整えることが次の世代の健康を考える上で重要である。薬理・病理学的な実験を得意とする筆者らは、欧州の労働衛生管理に通じた先方と今後も協力し、この問題に取り組んでいきたいと願っている。また、デンマークは他国と比べても高い職位に就く女性が多く、人々が互いを尊重しながら独立心を強く持っている印象を持つ。共同研究からは単なる研究成果だけでなく、人の多様性や独立性を尊重する雰囲気を醸成する社会環境についても学びたいものである。3.エジプトの大学研究者との共同研究 ― バイタリティ溢れる新興国で次世代を育む 筆者は2010年3月に博士号を頂いて以来、他国への留学先を検討していたが、国内での企業との共同研究が軌道に乗り始めて他国に出たいと思わない時期があった。それでも、バックグラウンドの異なる人たちとの国際的・学際的な研究を経験したいと願っていた筆者は、指導教員であった先述の武田教授に、他国からの研究員の留学を積極的に受け入れてほしいという相談をした。その折に、エジプトの大学研究者(教員)が自身を先方国の国費奨学生として受け入れてほしいという相談があり、筆者らは彼らを快く受け入れた。 共同研究の中で筆者はエジプトを訪れて驚いたが、その都市部の大気環境は現在も決して良くない。その程度は日本の報道に挙がる昨今の中国都市部の状況と同様かそれ以上である。PM2.5やナノ粒子をはじめとする大気汚染は現在も、そして今後も人の健康を害するリスク要因であるということは世界保健機構 (WHO) により報告され、Nature誌2015年9月17日号でも紹介されている。それらの資料を見ても確かに、エジプト都市部の大気環境は良くないことが分かる。エジプトでは現在のところ、大気汚染の改善による疾病予防の機運が高まっているわけではない。しかし、彼らには経済発展→環境汚染→健康影響の発生→環境改善→疾病発症リスクの抑制→さらなる経済発展という他国の歴史を踏まえ、環境汚染から健康影響の発生という負の部分を回避する権利がある。エジプトは若年層の人口比率が高く活気の溢れる国である。その若年層、さらには次の世代の健康増進に少しでも貢献したいと願いつつ、この活気溢れる国で活躍する人たちとの共同研究の中から、若年層の自由な発想とバイタリティを成果に結びつけていくための社会環境についても多くも学びたいと考えている。4.後輩へのメッセージならびに謝辞 本学の後輩たちにも、自身から生まれる自由な発想を大切にするとともに、なぜ自身がそのような発想を持ったのかを常に自問することを楽しんでほしいと願っている。また、本学が学生のそのような姿勢を今後も見守り、伸ばす環境であることを願ってやまない。 末筆ながら、筆者の勝手な発想と研究活動を常に温かく見守り、ご支援くださっている本学総合研究院・武田健教授、薬学部・市原学教授、ならびに基礎工学部・曽我公平教授に厚く御礼申し上げます。また、エジプト・ダマンフール大学との共同研究には本学国際共同研究事業による多大なご支援を賜りました。ここに深謝申し上げます。〈参考文献〉1) 梅澤ら「ナノ粒子の妊娠期曝露が次世代中枢神経系に及ぼす影響」薬学雑誌 137(1), 2017年1月掲載予定2) 梅澤ら「動物体内におけるナノ粒子の未知なる動態メカニズムと検出技術改善のニーズ」バイオイメージング 25(1), pp.22-28(2016年6月)共同研究先のデンマーク国立労働環境研究所 (National Research Center for Working Environment)。共同研究のデータも交えつつ密な議論を行う中で、2016年7月にここを訪れる機会を頂いた。エジプト・ダマンフール大学にて行った研究会での一幕(2015年3月)。長い歴史に育まれた彼らの朗らかな人柄も読み取って頂きたい。

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