理窓 2016年10月号
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16・10 理窓21の言葉で言えば,IoT(Internet of Things)に関する研究でした.特に,様々な通信ネットワークや通信機器の間を,通信を途切れさせることなく自由に切り替えるハンドオーバ技術の研究を進めました.現在では,ほとんどのスマートフォンは携帯電話ネットワークだけでなく,無線LANでの通信も可能です.そのような機器で,高速無線LANのサービスエリアでは無線LANに接続し,エリア外に出て移動し始めると広域をカバーする携帯電話ネットワークへと,自動的に切り替える技術の研究を進めました.このような技術は,携帯電話システムのトラフィック負荷を軽減するためにも有効です.私の研究では,このような異なる種類のネットワーク間のスムーズな切り替えを可能にするハンドオーバ技術や,携帯電話の通話を身の周りの様々な端末を用いた通話に切り替える端末間のハンドオーバ技術を開発し,その実装を進めました.デモの発表や特許出願もたくさん行いました.その結果,テレビや新聞にも取り上げてもらえるような成果を挙げることが出来ました. 様々なネットワークをスムーズに切り替えられるようになると、その選択を最適化する研究を行いたいと考えるようになりました.研究所での研究は技術の実証が主で,カオスやニューラルネットワークの数理を用いて最適化するような研究をするのは少し難しいと感じていました.そこで,7年間働いた研究所を退職し,東京理科大学に移りました. 4. 無線ネットワークの最適化 2007年4月から東京理科大学工学部第一部電気工学科の教員になりました.新しい研究室を立ち上げ,早速,無線ネットワークの最適化に関する研究を行いました.この頃,無線周波数やネットワークを最適に選択してダイナミックに切り換えながら利用するコグニティブ無線技術が注目を集めていました.そのようなネットワーク選択の最適化にニューラルネットワークを適用し,実装しながら有効性を示していく研究を進めました.またこの頃,コグニティブ無線技術の国際標準化も進められていました.私は,情報通信研究機構とともにIEEE1900.4という国際標準規格の会議に参加していました.年に3回のface-to-face meetingが世界各地で開催されておりましたが,この標準化会議を東京理科大学において2回も開催しました. 無線通信においては,限られた周波数帯域を多くのユーザの通信に利用します.通信の容量(通信速度)は,受信信号の大きさに対する干渉やノイズの大きさ(信号対干渉雑音比)と周波数帯域に依存します.通信容量を拡大するには,各々の通信に別々の無線リソースを割り当てたり,各々のユーザの通信の送信電力を調整したりすることによって,信号対干渉雑音比を最大化することを試みます.このような通信容量の最適化問題は様々な無線通信システムにおいて重要であり,私の研究室では様々なシステムを対象として,様々な手法を用いて研究を進めています.韓国のWon-Joo Hwang教授との国際共同研究で進めているDevice-to-Deviceという新しい方式の最適化は,JSPSの二国間交流事業(共同研究)に採択されました.この共同研究を通じて,日韓の学生間の交流も積極的に行っています. カオスやニューラルネットワークを無線通信や最適化に応用する研究を進めていく中で,FIRST,ImPACT,SIPなどの内閣府のプロジェクトに参画させていただくようになりました.東京大学の合原一幸教授のFIRSTプロジェクトでは,最先端数理モデルを無線通信に応用する研究を他大学の先生方とともに進め,新しい同期方式,最適化方式を構築することができました. 私は,学生時代は応用分野における問題を知らないまま,カオスやニューラルネットワークの理論研究を進めていました.情報通信研究機構に入所して無線ネットワークの研究を行ったことによって,応用についても深く知ることができました.現在は,応用分野における問題をきちんと式にして,それを理論で解決する研究を進めることができています.今後も,新しい分野に踏み出していくことを躊躇せずに,理論から応用までを一貫したアプローチで研究を進めていきたいと考えています.

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