理窓 2016年4月号
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24企業の研究所へ企業の研究所へ化学への興味 私が化学に興味を持ったのは、小学校の理科の実験がきっかけでした。2種類の金属片を薄い酸の水溶液に入れると、一方の試験管からは気体が発生し、もう一方は何も発生しないという単純なものでしたが、なぜそのような違いが生じるのか、とても不思議でした。その後中学・高校と化学を学んでいくと少しずつその理由が明らかになり、身近の不思議な現象を解き明かしてくれる化学をもっと知りたいと思い、理科大に進学しました。 大学では化学の専門課程に加えて教職課程を専攻し、母校で教育実習まで行いましたが、卒業研究で指導いただいた教授から「研究に興味があるのでしたら、大学院に進んだらどうですか?」と声をかけていただきました。それが日本で男女雇用機会均等法が施行された1986年のことです。当時はまだ理系女子が少なかった時代で、私自身も大学院進学という考えをもっていませんでしたし、両親の反対にもあいましたが、最終的には修士課程に進みました。そして、さらに化学に興味を持った私は、1988年に家庭品メーカーである花王株式会社に入社しました。家庭で使う身近なモノづくりに化学の力を活かしたいと思ったからです。企業における研究 花王に入社して、私が配属されたのはビューティケア関連の商品開発を行っている研究所でした。大学で学んできた化学の知識は多少役に立つものの、複雑な混合処方系である製品と、毛髪・皮膚といった生体組織との作用の本質を見極める難しさや、最終的には商品を使っていただいたお客様にどう好まれるかで判断される難しさがあって、入社してからしばらくは、これが本当に自分のやりたかったことなのだろうか、と考えることもありました。さらに、女性は結婚したら仕事をやめるもの、という価値観がまだ残っている時代だったため、社内の女性研究員が結婚や出産をきっかけとし退職していくのも寂しいことでした。そんな中で私は、せっかく大好きな「化学」という縁で就職できた会社なのだから、最低でも10年は仕事を続けてみようと決意しました。 しかし仕事に慣れてくると、商品開発研究の楽しさもだんだんわかってきました。お客様と世の中に役に立つものを自分の手で開発したいという想い、そして研究を深めることにより不可能と思われていたことを可能にして商品として提案できれば、私たちの生活に笑顔をもたらすことができる、という大きな目標が見えてきたからです。女性が働くということ その後入社7年目に1年間の育児休職を経て、ワーキングマザーとしての生活がスタートしました。会社員としては勤務時間や出張などに大きな制約がかかり、また母親としては子供と向き合う時間を十分にとれず、どちらも中途半端な状態で仕事を続けるべきなのだろうかと、深く悩みました。その一方で、効率的な時間の使い方や仕事のプライオリティのつけ方など、このような環境におかれたからこそ身についた強みもあります。また育児や家事の時間が増えたことによって“消費者視点”というものが日々の生活で自然に養われ、家庭品メーカーでの商品開発研究にはプラスになることも多かったと感じます。もちろん仕事をやめたいと思ったことは何度もありますが、「継続は力なり」を信じてあきらめず、今も(目標の10年を大きく超えて)研究の仕事を続けられているのは、自分が好きな仕事であることと、それ以上に多く方の支えがあったからこそだと感じます。ですので、これからはもっと女性が働きやすく、そして働きたくなるような社会になるよう、私にできる貢献をしたいと思っています。(花王株式会社ヘルスビューティ研究所)ががんばるんばる同窓同窓⑥松尾 恵子(61理・化)

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