理窓 2016年4月号
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16・4 理窓23は無機化学と流通機器の二つの部署で裁判事件も担当しました。審査官の最後は、医療機器と福祉機器を担当しました。医療機器はほとんどが外国出願なので危機を感じました。 1998年から特許法の改正担当となりました。法改正の説明会で全国を行脚させて頂いた折、「大変分かり易かった。特許法の位置づけが初めて分かった」と100通以上のお礼状が特許庁に届きました。特許法を分かり易く説明して欲しいという社会のニーズを実感しました。これが信州大学大学院で教鞭をとる契機となりました。4.大学への移籍 2002年4月から信州大学大学院の技術経営研究科(MOT)の非常勤講師を兼任しました。院生は長野県内の有数の経営者たち。特許法、実用新案法、意匠法、商標法、著作権法、不正競争防止法などの基礎的な話に凄い反応がありました。「もっと早く知的財産制度を知りたかった」、「知っていればビジネスが変わった」、「どうして早く教えに来なかったのか」という経営者の熱狂に驚きました。同年11月に講義をDVD化することになりました。日本初の知財DVD教材(PHP研究所)となりました。この録画作業の経験は後日の放送大学の教材製作に活かしました。 2003年10月に特許庁から出向した政策研究大学院大学では、地方自治体の職員たちへの知財教育の重要性に気が付きました。地域ブランドの萌芽が見えていました。 2005年4月から東京理科大学に知的財産の専門職大学院を創ると招聘して戴きました。そこで国家公務員を辞めることを決心しました。現在、専門職大学院にはMOT(技術経営)とMIP(知的財産戦略専攻)の2種類がありますが、2017年度からはMIPはMOTの中に組み込まれ、2018年度には経営研究科と統合されます。この機会に社会のニーズに合った専門職大学院に進化できればと願っております。 MIPでは、前期は「特許法・実用新案法概論」と「知財制度概論」、後期は「機械特許特論」、「地域起こし知財戦略」、通年で「プロジェクト研究(ゼミ)」を担当しています。院生は社会人と学生が混在しており、日韓米国の特許庁の審査官や弁理士、農林水産省の役人など多種多様な院生・卒業生がおられます。 2008年4月から6年半にわたり、放送大学の客員教授として「社会と知的財産」というテレビ講義を担当しました。この講義を受けた方がMIPに入学してくれることが大変嬉しいです。5.研究テーマ ようやく本題です。現在、「地域財」、「技術ブランド」、「農林水産分野の知的財産」を研究しています。これらの研究をすることとなった背景は、先進国が「工業社会」から「知識社会」へと大きく変化しているからです。大量生産、大量流通、大量消費が重要とされた工業社会から、個人嗜好の細分化に基づく多品種少量生産が不可欠な知識社会となり、国家も企業も戦略を変えざるを得なくなっています。いろいろなアプローチがあると思いますが、私は「地域財」、「技術ブランド」、「農林水産分野の知的財産」の観点で分析しています。 1番目の「地域財」とは「私財」と「公共財」の中間に位置する概念です。「地域」がブランドの所有者であるケースが顕在化しています。卑近な例では、富士宮やきそば。商標法が改正されるなど、「自然人」と「法人」以外でも権利が取得できるようになってきました。 2番目のテーマは「技術ブランド」。日本では技術ブランドを積極的に生かした戦略は少ないようです。「iPhone」はアップル社の、「今治タオル」は今治地域の技術ブランドです。特に、先端技術と伝統技術のブランド活用が課題です。 最後に、農林水産業の知財保護です。2006年から農林水産省は知的財産戦略に取り組んでいますが、営業秘密やブランドの管理がまだまだ遅れています。2008年2月にNHKの『クローズアップ現代~畑の中は宝の山~』に出演した際、視聴率が高くて驚きました。IT戦略本部の農業分科会の委員をしているのですが、農業も植物工場などの技術開発が動き始めています。農林水産分野の知的財産の保護が重要な課題となっています。

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