理窓 2016年4月号
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221.はじめに 私は東京理科大学薬学部4年生の時に国家公務員上級試験(現在のⅠ種試験)に合格し、経済産業省の特許庁に入庁して審査官、審判官や課長補佐などの仕事をしてから、国立大学を経て東京理科大学に戻ってきました。いわゆる実験を行う研究生活を経験していないので、他の先生方から見ると異色の経歴かもしれません。 現在、イノベーション研究科(専門職大学院)で特許法などの「知的財産」に関する科目を担当しています。平成28年度からは神楽坂キャンパスで大学院生の皆様に「知的財産制度」の授業を担当させて戴きますので宜しくお願いします。 本稿では自己紹介とこれまでの仕事を選択してきた経緯をお話しようと思います。話は11歳の夏まで遡りますがお許し下さい。2.情報への目覚め 「岩波新書を読んで感想文を書きなさい」というのが小学6年生の夏休みの宿題でした。大きな本屋さんで岩波新書が並んでいる棚を眺めると難しいタイトルの本ばかりで困惑しました。仕方なく数冊の本をめくっていたら、「サリドマイド」という言葉が目に飛び込んできました。迷わず、『薬-その安全性』という本を選びました。理由は同世代にサリドマイド児が多かったからです。 「サリドマイド薬禍事件」とはドイツで発明された風邪薬の「サリドマイド」を妊娠中の女性が服用すると子供の手が短くなるなどの催奇性障害が起こるものです。この副作用を発見したのはドイツ人でしたが、ドイツ国内では副作用情報が生かされずに薬の販売が続けられたため、多くのサリドマイド児が誕生しました。ところがアメリカの食品医薬品局(FDA)はこの論文情報に基づいてサリドマイドを販売させなかったのでサリドマイド児が誕生しませんでした。日本はドイツと同様に、多くのサリドマイド児が誕生しました。 頭の中に光が走りました。「情報」に目覚めた瞬間でした。副作用情報が適切に利用されない社会に怒りを感じました。なぜドイツ国内で情報が発見できなかったのか。なぜFDAは世界に警告をしなかったのか。なぜ重要な情報を有効に活用できない社会なのか。薬の副作用情報の仕事をしたいと考えて薬学部に進みました。 公務員試験に合格後は厚生省に入ろうと考えていましたが、その頃に副作用情報のネットワークが構築されるというニュースに接し、厚生省に行く目的が無くなりました。 たまたま特許庁を訪問したら、東京理科大学の大先輩の飯塚審判長が資料館を案内して下さいました。その時、公報陳列棚を指して「ここにはたくさんの『情報』があるよ」と突然言われたのです。「特許情報とは何ですか。論文情報との違いは何ですか」。矢継ぎ早に質問しました。私は特許庁にある「情報」の正体が知りたくて入庁を決めました。11歳から10年後の21歳の夏の日でした。3.特許庁時代 特許庁は研修が充実しており、「民法」や「特許法」などの法律や「国際特許分類」などの国際的な仕組みを教わり、世の中にはなんて面白い制度があるのだろうと毎日ワクワク過ごしていました。付加価値のある「情報」を創造・保護・活用する仕組みが「知的財産制度」と知りました。 薬学卒なのに機械関係の審査部に配属されました。機械は性に合って面白かったです。最初は包装容器や包装装置を担当し、その後、自動販売機、銀行ATMなどの装置を担当しました。審判部でイノベーション研究科イノベーション研究科  教授教授生越生越  由美由美(57薬・製薬)(57薬・製薬)研究・・開発最最前線(1)(1)

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