理窓 2016年4月号
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20安井建築設計事務所代表取締役社長佐野 吉彦(54工・建) 坊っちゃん賞を授与いただいたことを、卒業生として心から誇りに感じております。建築、とりわけ私が取り組んでいる建築設計は、エジプト時代にその専門家の活動が記録されている職業です。それ以来、建築主の望むことを実現し、また社会の安定に寄与してきました。古今東西を問わず、人類の活動を支えてきた仕事と言えるでしょう。建築の設計者(建築家)は、その専門的能力を鍛え続け、次世代にその姿勢を伝えてきたのです。 私もその道筋に連なりました。東京理科大学(建築学科と大学院建築学専攻)は、建築の基礎技能を鍛える場所でしたが、卒業後に実務に就き、国内外いろいろな土地で仕事をすることでさらに多くの知恵を学び、ますます建築の奥深い世界に出会うことになりました。そのなかで建築設計という仕事の社会的な責任について考え続けています。それは目に見えない重要な目標に対して、目に見えるかたちを与える仕事に他なりません。じつに喜びに満ちた建築の仕事ですが、同時に責任を伴う仕事でもあります。その使命を仲間と共有し、次の世代が意欲を持ってこの仕事を引き継いでほしいと感じています。そのためにさまざまな場面で格闘することが私の役割だと認識しています。 現在、私自身は安井建築設計事務所の社長を務めております。祖父・安井武雄が1924年に創業し、女婿である父・佐野正一が承継し、そのバトンを受けています。三世代にわたり、さまざまな発注者からの設計業務に携わっていますが、たとえば携わった空港ターミナルビルや病院、博物館、大学キャンパスなどが、竣工後に社会のインフラとして有効に使われている姿を見ると、自らの仕事が社会の発展に寄与する実感を得ることができます。それは私やスタッフが、次のプロジェクトに取り組むモチベーションになっています。 こうした姿勢と情熱を共にする建築界全体の質を高めるための寄与も、重要な任務です。そのために30代から多くの時間を割いてきました。継続的な研修制度の確立であるとか、地域社会への貢献、建築家の国際会議の運営など、多岐にわたって取り組み、現在に至るまでいくつかの専門家団体の会長も務めたりもしました。そうした活動からも私自身、多くの教訓を得ています。 母校では、工学部建築学科の同窓会である築理会の活動にずっと関わりました。在学生の自主企画運営による卒業設計作品集が毎年定例化するために尽力し、建築学科創設50周年記念行事のために汗をかいた経験は、振り返れば卒業生が果たす教育貢献としてはとても興味深いものでした。さらには2014年からは大学院での講義にも関わっています。 私の本業は、建築の設計を通じて人と人をつなぐことにありますが、こうした機会で、世代を越えつながる成果を導くことも大きな喜びです。このような、専門家としての多くの経験が認められたかたちで今年、アメリカ建築家協会から日本人で38人目となる名誉フェロー会員の称号を授与されました。今年は坊っちゃん賞受賞とともに、とりわけ意義深い年となりました。 最後に、恩師・真鍋恒博先生(現・名誉教授)ほか、在学中にご指導いただいた先生方に深く感謝いたします。また、学業とは別に熱心に活動した東京理科大学管弦楽団での、プロの音楽家による指導や友人たちとの切磋琢磨は、その後の人生に彩りを与えてくれました。大学で過ごした時間や、ここで得た生涯にわたる友人が私にとっての宝であることを申し添えごあいさつといたします。「坊っちゃん賞」を受賞して「坊っちゃん賞」を受賞して

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