理窓2014年10月号
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36500m先にある旋回地点までは順調に到達しました。旋回開始のベルが鳴り、飛行場では練習することができない最大関門を向え一気に緊張が高まります。旋回の入りは上々で旋回半径もフライト計画通り進んでいましたが、経験と技術の未熟さを思い知らされるように高度は落ちていきました。切った舵を戻すタイミングと機体の高度を知る術を持っていなかったのです。旋回を完了した時にはすでに1~2mまで高度は落ち、回復し持ち直すことはもはや不可能でした。 落水した瞬間、時間がピタッと止まったように感じました。しかし、針は止まることなく進んでいることに気付いたのは後輩たちの顔を見た時です。入学して間もない1年生すら悔し涙を流し、目の奥は次への野望に燃えていたのです。過去10年の歴史を尊重し築いた今年度の活動が、今後さらなる発展を志向する「常翔ACM」の礎になれたことを確信した瞬間でもありました。 人力プロペラ機タイムトライアル部門 第3位。初の表彰台を手にし、今回の鳥人間コンテストを終えました。発足当時の目的を果たせなかったものの、「勝つ」という目標は図らずも達成しました。 大きな物事を成すときは、『技術・資金・関心』の三つが揃うことが条件だといいます。今こうして我々の活動に関して執筆でき、読んでいただいている皆さんの目に触れたこともまた、我々の大きな原動力になり得るのです。今回の機会をいただけた理窓会の方々と、拙い文章を最後まで読んでいただいた読者の皆様に対する感謝の言葉で終わりたいと思います。ありがとうございました。本番 夏の琵琶湖が銀紙を貼り付けたように鈍く、眼底までくらませるような強い光でプラットホームが湖上に濃い影を落とします。張り詰めた空気を漂わせる聖地を前に不思議と緊張はなく、不安が期待を煽り、鼓動を高まらせ今か今かと待ちわびながら時間は過ぎましたが、誘導路そしてプラットホームを歩む頃には誰からの足取りにも不安を感じることはありませんでした。 ACMの下馬評は低く、テレビ局側の態度からも期待されていないのは一目瞭然でした。機載カメラは6チームの中で唯一我々だけが搭載されず、インタビューもありませんでした。今となってはプレッシャーを与えずフライトだけに集中させてくれたテレビ局には感謝しなければなりません。 「Gate Open!」その言葉を聞いてからの数分間、正直あまり記憶がありません。額から頬にかけて流れる汗が湖風に触れて気化し体温を奪う感覚と高揚による震えが共鳴する感覚だけが残っています。後で動画を見返すと息も瞬きもすることなく、必死に大声で応援している自分と仲間の姿がありました。パイロットの呼吸が伝わってくるほど集中し、数秒ごとに一喜一憂した湖上の思い出を忘れる日は来ないのでしょう。 運・経験・技術すべてを兼ね備えた者だけが頂きに立てる鳥人間コンテストにおいて、我々の持ち出した自信が自惚れだったことに気付かせられるのはそう難しい話ではありませんでした。無事にプラットホームから発進後、定常飛行に入り中央が佐々木峻君中央が佐々木峻君

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