HCD松本学長記念講演 東京理科大学の発展に向けて―理窓会との連携の中で―

近年、大学を取り巻く環境は大きく変化しています。なかでも、18歳人口の減少に伴って、大学進学率は上がるものの、進学者数は減少すると予測されており、どの様に入学者を確保していくかは大きな課題となっています。そういったなかで、中央教育審議会では、大学の在り方について議論がなされており、それによれば、実務家など多様な教員の任用、学部の枠などを超えた多様な教育研究分野の編成、社会人など多様な学生の受入れ、多方面との連携など、「多様性」をキーワードとした運営が求められています。特に、私立大学においては、大学間や自治体・産業界との連携・協力、ガバナンスの強化等の取組みにより、その特色である多様性・機動性を活かし、教育の質の確保、社会の急速な変化に対応した教育研究の推進・高度化を行うことが求められています。その為には、不断に外部の意見を取り入れ、社会への説明責任を果たし、産官学と真の連携を行う事が重要です。大学にとっては、教員、職員、学生、同窓生は車の四輪であり、特に、同窓生は大学に最も近い「社会」の利害関係者で、直接的な情報交換は大学にとって最重要課題となっています。

本学は、東京大学理学部物理学科を卒業した21人の理学士らによって「理学の普及を以て国運発展の基礎とする」という建学の精神のもと、「東京物理学講習所」として1881年に設立されました。その後「東京物理学校」に改称され、東大からの支援を得つつも、自律的精神の下、「同盟」を結んだ彼らによって、民主的に、維持、運営されてきました。これは東京理科大学を特徴づける原点になっています。設立にかかわった理学士らは、学術への気概に満ち、情熱に溢れた教育者でした。その志は東京物理学校で学ぶ学生たちにも共有され、真に実力を身に付けた者のみが卒業していました。当時から「実力主義」の学校として定評があったのです。優秀な理数系の教育者を多く輩出するなど、今日でも、その伝統は脈々と受け継がれています。

本学は設立以来、暫くの間、維持同盟を結んだ彼らによって運営されてきましたが、1934年、理化学研究所の3代目所長である大河内正敏を4代目の校長として迎え、応用理学分野も加えて大きな発展を遂げました。1949年に行われた学制改革によって、東京物理学校は東京理科大学となり、初代の学長には、東北大学の総長を務めた本多光太郎を迎え、さらなる発展を遂げました。本多光太郎は「学問のある所に技術は育つ。技術のある所に産業は発展する。産業は学問の道場である。」と喝破し、研究レベルの高い大学に発展させました。そして今日、東京理科大学は、我が国屈指の理工系総合大学となっています。

本学のさらなる発展には、既に述べたように、社会的要請を不断に取り入れつつ、その伝統的役割を果たし続けることが必要です。そのためには、将来目標を明確にし、教員、職員、学生、卒業生など全構成員がビジョンを共有し、それに向けての方策を着実に実行していくことが肝要です。理工系総合大学という特長を活かし、多様な環境に適合していくことが、理科大を大きく発展させ、次世代の科学技術イノベーションや産業の発展に貢献することに繋がると確信しています。

教育においては、伝統である「実力主義」を深化させ、専門知識に加え、幅広い教養や国際性、人間力を身に付け、多様な場において活躍できる人材を育成したいと考えています。そのためには、教育支援スタッフの充実、教育連携国際ネットワークの構築、教育手法の研修機会の拡充など全構成員の教育力の向上を図る必要があります。研究においては、個人の自由な発想に基づく研究を支援するとともに、社会の要請を意識した戦略的研究を推進することが必要です。そのためには、国公立や民間の研究機関とのさらなる交流・連携を推し進め、国際的な研究連携ネットワークを構築し、教員の国際的なプレゼンスの向上を図る必要があります。

我々を取り巻く社会的課題は益々複雑化し、その解決に必要な知識は益々細分化されています。知識の細分化は、学術の理解を困難にするのみならず、専門家にとっても領域外との連携が困難な状況を生んでいます。そのことは、国連が定めた「持続可能な開発目標」を見るまでもなく、地球環境問題の深刻化、世界的な財政危機など多様な社会的問題・課題を生む要因となっており、解決を困難にしています。そのような状況を打開するには、各専門領域における知識基盤の充実が重要であるとともに、知識を構造化し、活用できるようにすることが必要です。さらに、領域融合型イノベーションに加えて、大学間や自治体・産業界との連携を強化し、オープンイノベーションを起こしていく必要があります。理科大が大きな連携のハブとなり、産官学の共同研究・協働作業を通じた研究の推進、人材の育成・交流のプラットフォームを構築していきたいと考えています。理窓会会員各位との連携に期待しています。

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