超伝導人工原子の物理と量子コンピュータへの展開

【略歴】
理化学研究所 超伝導量子シミュレーション
研究チームリーダー兼務。
【主な功績】
サイモン記念賞、GeneExpression量子イノベーター賞、
応用物理学会超伝導分科会論文賞、仁科記念賞、
未踏科学技術協会 超伝導科学技術賞特別賞、
応用物理学会解説論文賞、江崎玲於奈賞、紫綬褒章など。


研究室のあらまし

蔡研究室は2015年の4月に開設され、2020年6月現在で、発足より5年が経過しました。卒業研究の学生4名と共にスター卜した蔡研究室は、現在では博士研究員4名、博士課程学生5名、修士課程学生10名、卒業研究学生7名の大所帯に成長しました。メンバー中6名は外国籍であり、また4名は女性であります。過去5年の間卒業した多くの学生たちは、日本の一流企業を含めた数々の雇用先への就職を果たしました。

2019年度研究室メンバー

量子コヒーレンスと超伝導

図1 冷凍機での実験

この研究室で取り組んでいるのは、量子力学の中でも最も常識離れしている量子コヒーレンスや量子観測に関する物理です。物質が「量子コヒーレント」に振る舞うということは、例えばその物質が2つの場所を同時に占有できるという、大変奇妙な量子力学の特性を反映したものです。
宇宙の根源的原理である量子力学はおおよそ90年ほど前に確立しましたが、このような量子コヒーレンスの不思議な振る舞いを調べる実験は、最近の20年間で、ようやく実現できるようになりました。森羅万象の最も深部に横たわる量子コヒーレンスの研究は大変重要な基礎研究であります。
我々の研究室では、超伝導状態を使い、このような量子コヒーレンスが出現する物理系を作り出し、その量子状態操作などの研究を行っています。超伝導状態とは金属の抵抗がゼロになる奇妙な現象です。ひとたび金属が超伝導状態に転移すると、電子の運動の自由度はすべて奪われ、単一な巨視的量子状態と呼ばれる特殊な状態に落ち込みます。この超電導の巨視的量子状態を利用した量子回路を作成し、さまざまな実験に取組んでいます。

超伝導人工原子(または量子ビット)

図2 超電導量子ビットの模式図

超伝導回路という巨視的な物理系において、量子コヒーレンス性を保ったまま系の物理状態を制御することを、我々は1999年に世界に先駆けて実現しました(NEC筑波研究所にて)。これは超伝導量子ビットと呼ばれるもので、設計上の大きな自由度や、局所的量子状態制御・読み出しが比較的簡単にできることが特徴です。

超伝導量子コンピュータ

超伝導人工原子の重要で未来志向な応用として、量子コンピュータがあります。これは現代のコンピュータの能力をはるかに凌駕する計算機であり、新規な情報処理の有力なパラダイムとして、その実現に向けた研究が世界的に進められています。量子コンピュータの基盤となりうる物理系の中でも、超伝導電子回路は集積可能性と設計自由度が非常に高く、かねてより量子コンピュータ素子の第一候補として有望視されてきました。
我々の研究室では量子コンピュータに向けた研究も、他の大型研究所では行っていない独自な研究方針と独自な回路方式をもち、一歩先を見据えた研究を進めています。

関連記事

ページ上部へ戻る