藤嶋学長 文化勲章受章

「植物の光合成反応と同じだ」と驚いた藤嶋学長は論文を書き、68年に日本化学会に発表。だが光エネルギーの概念が定着していなかった当時、まったく受け入れられなかったという。
72年に論文が世界的な科学雑誌「ネイチャー」に掲載される。同誌での論文掲載は非常に難易度が高いため、新聞やテレビでも報道され、一躍話題になった。73年には第一次オイルショックが発生。代替エネルギーとしての水素を製造する方法として注目を集めた。
残念ながら水素の発生量は少なく実用化へは長い道のりが必要だった。そこで、エネルギー以外での応用の研究に着手。強い酸化分解の力を使った「消臭」「殺菌」「汚れを防ぐ」作用に的を絞り、他の研究者とも協力しながら消臭機能のあるトイレのタイルや空気清浄機などを開発。大ヒットとなり、いわゆる「光触媒」として一般的に知られるようになった。
その後、光触媒はさまざまな分野で応用されていく。なかでも注目されているのが、環境問題への応用だ。例えば、高速道路のトンネル内の照明器具。排ガスで汚れ、照度が落ちてしまうが、掃除をする際に交通規制をすると渋滞が起き、事故が発生する恐れもある。そこで油や水を分解する光触媒で実験。塗った部分は汚れが少ないことが判明した。さらに、タバコの臭いを取ったり、空気中のウイルスなども分解除去できることがわかり、空気清浄機として利用されている。
一方で、酸化チタンの膜は付着した水が表面になじんでいく「超親水性」の特性があることが判明。この特性はガラス表面の曇りを防げることから、自動車のサイドミラーへのコーティングに応用され、事故の減少にも貢献している。

天寿を全うする科学技術への取り組み

現在も光触媒の応用は続いている。挑戦が続くのが水質浄化への応用だ。
例えば農業や水産業への応用にも発展し、今では一定の成果を生んでいる。
さらに、藤嶋学長は今後も光触媒を環境改善のための技術として応用する研究を続けていくという。そのベースにあるのは「天寿を全うするための科学技術」という信念である。藤嶋学長は東京理科大のウェブサイトのインタビューにこう答えている。
「この世に生を受けたからには、少なくとも天寿を全うしたい、と誰しもが思うことでしょう。天寿を全うすることに寄与すること、それが科学のあり方であると思います」
50年をかけて光触媒を研究するとともに、常に教育の現場で若い科学者の育成にも務めてきた藤嶋学長。そして、10年の東京理科大学長への就任とそれに続く文化勲章の受賞。また、13年には自らをセンター長として『光触媒国際研究センター』を始動し、光触媒の持つ可能性を探求し続けている。研究者として、教育者として、藤嶋学長の今後の活動には大いなる期待がかかっていると言えるだろう。


東京理科大学 光触媒国際研究センター

センター長/東京理科大学 学長 藤嶋 昭
場   所/野田キャンパス 千葉県野田市山崎2641(東武アーバンパークライン「運河駅」下車徒歩10分)

藤嶋昭学長をセンター長として、2013年に始動した「光触媒国際研究センター」は、光触媒技術発信の中心とし、世界中に発展普及させていくことを目指しています。同センターは、産学官が連携して光触媒に関する基礎研究から製品開発、産業化までの取り組みを一箇所で行える拠点として、光触媒の普及、発展をリードしています。

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