薬学部創立60周年を記念して 東京理科大学薬学部長 宮崎 智

東京理科大学薬学部は、2020年に60周年を迎えました。大袈裟かもしれませんが、歌舞伎界で称されるように、ようやく研究・教育・社会貢献で本学を支える一人前の大人となったと言えるのかもしれません。本稿では、これまでの経緯や現状を紹介しつつ、記念すべき節目をOG,OBの方々と共有・祝福させていただきたいと思います。

1. 沿線
東京理科大学薬学部は、1960年4月9日に、第1期生140名が入学しています。薬学科1学科でのスタートでした。その後1965年に、製薬学科と薬剤・衛生薬学科の2学科へと改組、1967年に薬剤・衛生薬学科があらためて薬学科として改称されます。さらに、1978年に大学院博士課程設置が認可され、現在の学部・大学院体制が確立されました。2003年に野田地区を中心とした生命系研究拠点形成の推進に伴い、野田キャンパスへの移転があり、2006年の全国的な6年制薬学教育開始時からは、現在の6年制薬学科と4年制の生命創薬科学科の2学科体制への改組が実施されました。6年制の導入に伴い、多くの薬学系大学が薬学科のみに移行しましたが、本薬学部は、2学科の定員数を同数の100名としたまま6年制を開始しました。薬学を基礎とした「研究」ができる大学としての存在意義を継続しています。
2. 薬学教育の現状について
6年制薬学教育の特徴はなんといっても22週間に渡る長期実務実習の導入です。薬剤師免許を持たない学生が、薬局と病院で実際の実務を学ぶ仕組みが導入されました。これに伴い、実習生の質保証を担保させる目的の1つとして、全国的に画一化された、薬学コアカリキュラムが制定され、約900項目の必修項目が薬学科の卒業要件となりました。また、こうしたカリキュラムの遂行実態評価のために薬学評価機構が設立され、本学も第1回の評価を受けています。こうした制約は、学生のみならず教員の研究活動時間の大幅な削減に繋がり、全国的に見ますと、博士課程進学者数の圧倒的な減少を招いています。また、医学部が無く、大学病院を持たない本学は、先のカリキュラムで求められている「チーム医療」教育の実現も不安材料の1つとなりました。しかし、本学薬学部は、大学病院が無いことを逆手に取り、筑波大学、東京医科歯科大学、獨協医科大学、東京慈恵医科大学、順天堂大学、日本医科大学等と次々に教育・研究連携を結び、病院実習への磐石の基盤が出来上がってきています。理事の方、学長室や教職員の理解と努力の賜物であり、この場をお借りしてお礼と敬意を表したいと思います。先に、博士課程在籍者の全国的な減少について触れました。これまで、本学の大学院の薬学研究科については、修士課程進学者が学部卒業者の90%以上を占めており、生命創薬科学科も実質6年制となっている旨の広報は頻繁になされてきました。しかし、下記の表に示しましたように、本学の博士課程在学者も合計で40〜50名を数え、課程博士としての学位取得者も毎年10名近くに達しています。2019,2020年は論文博士を加えて18名の学位取得者を輩出するに至りました。
 研究時間の圧迫ということも述べましたが、2018年度の生物・医学系分野の論文数では、私立大学として全国で唯一、東京理科大学薬学部だけがベスト10にランクインしました。こうした背景も博士課程進学者の確保に繋がっているのでしょう。薬剤師国家試験についても合格率、全国順位とも他の私立大学を圧倒して良い成績を納めることができています。OB,OGが築いてこられた校風と先人教職員の工夫等が定礎となっています。さらに、2018年度からは、神楽坂キャンパスにて医療薬学教育研究支援センター(2研究室は当該センター内で活動中)も開設し、2020年度はオンライン講義の充実(これもコロナ禍の逆風を順風に変えた成果)もあり、1000名以上の社会人受講生が参加しています。
2025年の葛飾移転に向けて、2021年6月に新棟の建設が始まりました。移転後も野田キャンパスには薬草園等は維持されますので、神楽坂の医療薬学教育研究センターとともに、理科大史上初となる3キャンパスを活動拠点とする学部が誕生します。薬工連携、核酸医薬品等の新しい研究領域の拡充等を計画しています。

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