自分らしく学校経営、自分らしく生きる

◇教育管理職ヘの道
理学専攻科を修了して、都立高等学校の物理教員として就職しました。その後、三十年あまりにわたってお世話になりましたが、四十歳からの二十年間は教育管理職として勤めました。管理職を志したのは、生徒のことよりも自分たちが楽をすることを優先し、教育活動に責任をもたない周囲の多数の教員たちとの戦いに疲れたからです。数名の仲間の教員たちと学校をより良くしようと奮闘しましたが、それもかなわず、「自分で理想の学校をつくるしかない」と考えたのです。
◇学校経営の責任
最初に教頭として勤務したのは、伊豆大島にある大島南高等学校でした。海洋科があり、都内から多くの生徒が海を渡り、寮生活をしている学校でした。実習船で大島から神戸まで大しけの中を生徒共に航海実習に参加したことは忘れがたい体験でした。良き上司と優秀な教職員たちに恵まれ、管理職としての基礎を学ばせていただきました。
その後、西高等学校の副校長となり、都立学力トップ高の生徒たちが学習・学校行事・部活動に真摯に取り組み、高みを目指している姿を目の当たりにしました。生徒たちの主体性を生かしながら、教職員でどのようにサポートしていくべきか、互いに知恵を出して協働する日々を過ごしました。その後は、教育行政に携わりました。生徒がいない日々は寂しいものがありましたが、二十校あまりの担当校の学校経営を支える仕事を通して、優れた学校経営に触れることができたことは貴重な経験でした。このとき後に自ら校長として着任することになる日比谷高等学校を担当したのです。

◇学校を変える
翔陽高等学校の校長を経て、日比谷の校長に着任しました。志の高い意欲的な生徒たち、それを献身的に支える教職員たち、何事にも協力的な保護者の皆様、そして各界で活躍する同窓生の皆様、これらの総合力が高まり、学校が活性化しました。校長室の扉を開け、日々さまざまな生徒たちと語り、相談に乗り、バドミントン部活動で共に汗を流しました。英語が堪能なわけではありませんが、思い切ってニュージーランドや韓国の学校と姉妹校協定を締結しました。また、生徒たちがハーバード大学やMITを訪問する研修やニューヨークのアスペン研究所において専門家を前にして世界の食料問題の解決策をプレゼンする研修もつくりました。たとえ、短期間であっても若いうちに世界を見つめる体験が、生徒の将来につながると考えたからです。令和2年のCOVID-19による全国的な臨時休業の際には、いち早く全校オンライン授業を実施しました。生徒・教職員とともに、学校がより良い方向へ進み、生徒たちの希望する進路も実現できるようになったのです。学校をよりよくしていく手ごたえを感じながら、自分らしく学校経営に勤しみました。
令和3年3月に定年退職し、現在は小平市にある白梅学園高等学校で校長を務めています。
現任校では、「生徒間の対話のある授業場面」をつくって、「生徒たちの思考力等を高めていきましょう、そしてより主体的に学びに向かう生徒集団へと育てていきましょう」というビジョンを示して、教職員と共に取り組んでいます。毎日授業を見て、良い取組を「校長室だより」に掲載して学校webサイトで紹介しています。また、バドミントン部の顧問として生徒たちと汗を流しながら、彼女たちの技能や精神面の向上を支援しています。組織のトップには常に重責が付きまといます。しかしながら、トップにしかできないこともあるのです。その醍醐味は成った者にしかわからないのかもしれません。私が常に自分に言い聞かせているのは、「自分らしい学校経営をする」ということです。人の生き様も型通りであるわけではありません。「自分らしく生きる」、これが最も大切だと考えます。

◇現役生へ
現役の学生の皆さん、理科大の卒業生たちは至る所で活躍しています。社会に出ると、そのつながりに驚かされることもあるでしょう。また、理科大の卒業生は概して専門性が高いと思います。在学中に鍛えられているからでしょうが、自ら未知なるものに向かってとことん追求していくタイプの人が多いように感じます。
社会に出ると、さまざまなことがあります。楽しいこともあれば、困難に打ちひしがれることもあるでしょう。若い頃の私は、人と戦うことで学校を変えようとしました。しかし、それがかなわなかったから教育管理職を目指したのです。今の私ならば、一人一人の良さを見出して、それらをつないで組織としての成果へと導けるようにします。そうして、なかなかトップの方針を理解しようとしてくれない人がいたとしても、対話を繰り返したり、働きかけをしたりすることによって、少しずつ変容してくれる人も出てきます。苦しいときにも、心の中に少しばかり「楽しむ気持ち」をもって、さまざまなハードルを乗り越えていくことができるものです。母校の御発展と皆さんの御活躍をお祈り申し上げます。

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