第2回物理学園賞受賞 光触媒研究の先端をいく

はじめに

お断りしておくと、本稿の表題は筆者がつけたものではなく、編集部から頂戴したものである。「先端をいく」というと幾分気恥ずかしい感情が芽生えてくる。筆者の勝手なイメージだが、光触媒のような機能材料研究の「先端」というと、例えば水分解水素製造の太陽光エネルギー変換効率の世界記録を更新するのに日々努力している方々を思い浮かべる。一方の筆者といえば、これは学生時代からのこだわりであるが、ゼロをイチにすることを最重要課題としてきた。それによって、何を成し得たかの詳細はここではあえて語らず、筆者の学生時代を手短に振り返ることで、後輩諸氏の参考(?)になればと考える。

真面目な空回り学生

図1 当時の学生実験レポート

現在の教員という立場から改めて筆者の学生時代を振り返ると、要領はそこまで良くなかったがそれなりに勉強する学生だったように思う。成績的にはおそらく中の上程度か。記憶に強く残っているのは学生実験のレポートだ。例に漏れず、いろいろなルートで入手した過去レポを参考にしつつも、同輩らと図書館に籠って文献をあさり、自分の言葉でワープロを打っていた。(図1)に示すのは今でも残る当時のレポートである。確かこれは新設の実験科目のもので、当時は過去レポなどはもちろんなく、自力でやらざるを得なかったのだが。

さておきこの習慣は、今仕事として(研究者として生き残る糧を得るために)やっている研究成果報告書(英語の原著論文含む)の作成や研究費の申請書作成に大いに役立っている。研究者・前田和彦の礎は、間違いなく理科大での学部時代に培われたのだ。

学部4年に進級する直前、いろいろあって東京工業大学の堂免・原研究室で外部卒業研究をやらせていただくことになった。応用化学科の工藤昭彦先生(当時助教授)が紹介してくださったのだ。筆者の現在のライフワークでもある光触媒研究は、ここから始まった…のだが、最初は本当に散々だった。液体窒素汲み取り用のデュワービンは割る、高価なキセノンランプも冷却ファンのかけ忘れで壊す(もの凄い破裂音は今でも記憶に残っている)。典型的な空振り型学生の姿を晒していた。

夢の可視光水分解

図2

しかしそんな中でもチャンスは訪れるものである。今でこそ、一部の教科書に載るくらいの内容となっているが、当時単一の光触媒を使った水の可視光分解は実現できておらず、研究室内だけでなく当該研究のコミュニティでも夢の反応とされていた。幸運だったのは、この反応を再現よく進行できる光触媒を修士1年の最初の頃に見つけることができたことだった(図2)。まさか本当にできたのか!?と思い、手を震わせながらガスクロのチャート紙が出力されるのを待っていたことを今でもはっきり覚えている。
この幸運に至ったポイントをひとつ挙げておくと、学部4年生の頃から水分解光触媒の研究論文(もちろん英語)を読みあさっていて、手前味噌ながら知識だけはそこそこ有していたことだ。可視光水分解の成果も、そうして得た知識を元に仮説を立て、実際に手を動かす中で得られたのである。

おわりに
学生時代の学位論文研究というのは、学士、修士、博士の違いによらず、指導教員という名の保護容器の中で行われる。だから、仮に研究がうまくいかなくても100%学生の責任とはならないし、逆に如何に大きな成果を得ても100%学生の力によると認めるのは難しい。とはいえ、研究活動を通じ、頭を使って考えて出したアイディア、それがうまくいって得られた成果、逆にうまくいかなかったという経験は、様々な形で自身に恩恵をもたらし、将来思わぬところで役に立つことがある。大事なことは、目の前の課題に全力で取り組むということだ。

上から目線になるが、後輩諸氏には「指導教員から一本とってやる!」くらいの強い気持ちで研究に励み、スケールの大きな研究者へと育って欲しいものである。最後の最後で瑣末な話に聞こえるかもしれないが、論文の読み込みは研究者として力をつける最も確実な方法である、と記しておく。

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