物質表面における水の特殊な構造や機能を計測する技術で、環境・エネルギーや医療・生命科学などで貢献「ウォーターフロンティアサイエンス&テクノロジー研究センター」

【由井宏治センター長】

東京理科大学には、国際的に高い評価を受けている研究機関が数多くある。大学の誇る研究所をシリーズで紹介している。第4回目はウォーターフロンティアサイエンス&テクノロジー研究センター(略:W-FST)を訪問し由井宏治センター長にお話を伺った。

◆物質表面における水の構造と機能の解明を目指して
「水」は接する物質に応じて、その構造を柔軟に変えることができる基本的な物質である。我々の身体の60~70%を占める水は、細胞や組織を満たしその構造化と機能を助けるなど、生命活動にとって必要不可欠な役割を果たしている。さらに我々の生活環境、すなわち適度な湿度と大気圧のもとでは、生活を支える身の回りの様々な物質や材料の表面にも必ずと言ってよいほど水が存在している。これらの物質・材料表面に存在する水は目では見えないが、親水性・撥水性制御に基づく表面防汚機能、自動車・船舶・航空機などの輸送機器における摩擦・潤滑部分の性能、また再生医療材料などでは人工血管や臓器などを構成する材料表面における生体適合性などの機能に大きく影響している。これらの環境・省エネ・医療用材料の最先端の研究現場では、大気中における材料表面における分子レベルの水の構造解析と、機能への影響評価が欠かせない。

湿度などの大気環境を制御したもとで、物質・材料表面における1分子層の水の構造に迫ることのできるヘテロダイン検出和周波発生分光法装置と研究員

◆分野の垣根を越えての研究体制
物質・材料表面における水の分子レベルの吸着・水和構造から、材料の機能に関わる濡れ・流れといった水の動態をつなぐ機序を解明し、学理を構築するには、異なる専門分野間の研究協力が必要不可欠である。
本センターでは、物理・化学・生命科学・材料工学・機械工学といった分野の垣根を越えて研究者が集結し、物質・材料表面に存在する水の特殊な構造や機能を分子レベルからスケール横断的に明らかにすることを目的としている。我々の目にする濡れや流れなど、さまざまな水の挙動ならびに材料機能の起源を、表面分子レベルから説明しうる、マルチスケールな水の学理の構築を推進している。このようにして得られた学術的な知見を基に、普遍的に存在し、かつ安全な物質である「水」を積極的に利用した、環境材料・省エネルギー材料・医療用材料などの開発に応用することで、環境負荷を減らした高効率、低エネルギー消費型の持続可能な社会や長寿高齢化社会の実現に役立つ材料開発への貢献を進めている。
東京理科大学では、国際的にも類を見ないこのような材料表面における水の研究に集中特化した研究センターを有することで、学術分野における国際的な貢献、ならびに持続可能な豊かな社会構築への貢献を目指している。

◆広がる「面と面」との産学連携研究
本センターは、本学研究戦略・産学連携センターによる円滑な運営協力のもと、専門分野の異なる複数の教員・研究院と企業との共同研究を積極的に推進している。共同研究だけでなく、博士号取得に取り組む若手企業研究者の育成や、企業研究者と本学研究者との交流・新たな課題発掘の場になっている。
写真(右)は花王株式会社様との共同研究成果を2019 年11月に国際シンポジウムOkinawa Colloids 2019で発表した際の集合写真である。企業研究者と本学学生と現場レベルの研究交流も進み、本学学生にとって新たな学びと創造の場にもなっている。

取材記 : 何の疑問をもたなかった水がナノスケール単位で計測されることにより、さまざまな領域で、幅広い分野で基礎研究や応用研究がされ始めている。東京理科大学ならではの横断的な研究が進められていると認識し、研究所を後にした。

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