機能性ソフトマテリアルの創製

研究室紹介
私は理学部第二部(夜間部)の教員ですが、研究室には理学部第二部化学科・理学部第一部化学科、応用化学科の学部四年生と、理学研究科化学専攻の修士課程・博士課程の学生(15~20名程度)が在籍しており、研究室は午前中からスタートします。研究としては、液晶、高分子化学、光化学を軸として、機能性ソフトマテリアルの創製を目指しています。液晶も高分子もソフトマテリアルであり、様々な相互作用が生じるため分子の化学構造から物性を予測することは簡単ではありません。当然、ある機能の発現を目指して分子を設計しますが、合成した化合物が予想外の性質を示すこともあります。研究としては予想外の性質が魅力的であり、そこから新しい研究がスタートすることもあります。以下に、最近取り組んでいる研究を2例紹介します。

研究例1
液晶性ビオロゲンの研究
液晶とは、結晶のような規則性と液体のような流動性を併せ持つ物質であり、ディスプレイのスイッチング材料として使用されています。一方、ビオロゲンは、電界印加や光照射などで還元され、それに伴って色変化を示す化合物です。光応答性を示すビオロゲンに液晶性を付与して流動性や異方性を付与することで、ホログラム材料等の高機能材料に展開したいと考えています。ビオロゲンは、イオン性化合物のため決して液晶相を形成しやすい分子ではありません。イオン性棒状分子であるビオロゲンの液晶性は、いくつか報告がありましたが、そのほとんどが規則性の高い高次の液晶相であり、発現温度も高温でした。最近、我々は、室温で低次の液晶相(=規則性の低い液晶相)を示すビオロゲンを開発することに成功しました。系統的に分子構造を変化させることによって、剛直なコア部分の非対称性が液晶相の種類と温度に大きく影響を与えていることを明らかにしました。

研究例2
液晶性高分子が作る規則的多孔質フィルムの研究
水と混ざりにくい有機溶媒に高分子を溶解し、高湿度下でフィルムを作製すると水滴が鋳型となり、フィルム表面に数µmレベルの空孔が形成されることが知られています(Breath figure法と呼ばれています)。フィルム表面に空孔が形成されるか、空孔が規則的に配列するかどうかは、高分子溶液、湿度、温度などに依存します。また、高分子の化学構造が変われば溶液の性質は変化するので、どんな高分子でも規則性の高いフィルムが得られるわけではありません。我々は、ある液晶性高分子が、上図に示すような規則性の高い多孔質フィルムを形成することを偶然見つけました。µmサイズの空孔は、当然、目視では分かりませんが、「フィルムの反射がいつもと少し違う」ことから規則構造の存在を疑い、この研究が始まりました。Breath figure法で規則構造を形成することが分かっている液晶性高分子を軸として系統的に分子を合成し、極性部位を有する疎水性高分子が適していることをつきとめました。

卒業生コメント
伊藤 雷 日本精工株式会社(理学研究科化学専攻2017)(理一・応化出身)
私は第一期生として液晶性ビオロゲンの熱物性や光物性の研究を行いました。一から研究を進めたこと、中先生や研究室の皆と過ごした日々は非常に楽しい思い出です。現在、私は機械系のメーカで新製品開発に携わっています。直接化学の知識が活かせる状況は少ないですが、テーマの進め方や物事を深堀して考えることなどは研究室での経験が活きていると感じます。

 

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