夢の次世代電池 レアメタルフリーナトリウム電池

駒場研究室

将来的な原料供給の不安からスタートした新しい蓄電池への挑戦。

今、私たちの暮らしになくてはならないスマートフォンやモバイルPCには、リチウムイオン蓄電池が搭載されており、その性能の高さからハイブリッド自動車にも利用されています。そして今後は電気自動車(EV)への利用や風力・太陽光発電等の自然エネルギーの安定利用のために、さらに大型蓄電池の開発が期待されています。しかし、そうしたニーズにリチウムイオン蓄電池が本格利用されるには、まだ多くの課題が残されています。

例えばEVの場合、現状では一充電あたりの走行距離がわずか200~300kmほどで、さらにフル充電に1時間以上かかります。この課題を解決するには蓄電池のエネルギー密度を高めることが重要で、新たな電極材料を開発する必要があります。そしてさらに、リチウムイオン電池に必要なリチウムやコバルト、銅といった希少資源はすべて南アフリカや南米から輸入しており、将来的な原材料の確保に不安があります。そこで私たちはリチウムの代わりに資源の豊富なナトリウムを用いて、次世代のニーズに対応できる新しい蓄電池を開発しようと挑戦をはじめたのです。しかし、私がナトリウムイオン電池の研究をはじめた頃は、ナトリウムは、リチウムに比べると原子量で約3倍、イオンのサイズも大きく負極にイオンが入り込まず充放電されないという欠点もあり、蓄電容量を考えれば、当時は「リチウム以外の材料で電池を作るのはナンセンスだ」という考えが主流でした。

リチウム全盛の時代に見えてきたナトリウムイオン電池の未来。

そんなリチウムイオン電池の研究が全盛だった当時、私の心を突き動かす出来事がありました。それが、2004年に九州大学が発表したナトリウムと鉄を組み合わせた電極の研究成果です。コバルトの代わりにリチウムと鉄を組み合わせた酸化物では電池性能は高められない。一方、ナトリウムと鉄は電極として相性が良く、将来的な資源不足の不安もありません。私は「これなら“ナトリウムイオン電池なんて無理”という今までの常識を覆せるのではないか」と確信を持ったのです。そして、多くの試行錯誤の結果、私たちの研究室は、2009年にナトリウムイオン電池の負極に用いる炭素材料の改良を重ねることで、世界で初めて100回以上の安定的な充放電が可能になることを発表しました。その後もいろいろな大学や企業で追従研究が行われ、リチウムイオン電池に匹敵する長期充放電が可能なナトリウムイオン電池の報告が数多く発表されるようになり、現在では世界中でナトリウムを利用する電池の研究が活発に行われています。私の研究室でも、世界の研究開発の激しい競争の中で、大学院生とともに研究に取り組み、今後の研究に大きな手応えと可能性を感じています。現在では、JSTの戦略的国際共同研究プログラムに採択されドイツ、スペインの研究仲間と研究に取り組み、また国内外の企業とも共同研究を活発に行っています。

今、日本で最新のサイエンスとテクノロジーを同時に学べ、さらにユニークな研究ができる最高の環境が理科大の強みだと思います。

現在、研究室がある神楽坂キャンパスの研究棟には30ほどの化学系の研究室が集まっており、分析、合成、光、工学、環境、バイオなど基礎から応用まで幅広い研究が行われています。同じ建物内にさまざまな分野の研究室が集まっていることで、私たちは他分野の研究成果をいち早く知ることができ、「あの研究は、自分の研究にも応用できるのではないか」と感じれば、すぐにその研究室の先生に話を持ちかけることもできます。さらに理科大内では、理学系や工学系の多様な分野の専門の先生たちが連携しながら共同研究を行っており、私自身もいくつかのテーマで異分野の先生方と協力して研究を進めています。私の研究室では、学生27名と外国人ポスドク1名、技術員1名、企業からの研究員1名、私を含め教員3名が所属し、それぞれのテーマで非常に質の高い研究をしています。世界の研究者や企業から注目されるような研究ができたことは私の誇りであり、私の研究室は今、ナトリウムイオン電池の研究では世界一だという自負を持っています。
駒場研究室HP:https://www.rs.kagu.tus.ac.jp/komaba/index.html

Na電池試作品


[卒業生コメント]
 池内 一成(理・化2013/総化研・総化2015)パナソニック株式会社 テクノロジーイノベーション本部

駒場研究室ではNaイオン電池の正極材料の研究を行い、新規電池のため、当時は先行研究も少なく大変さもありましたが、試行錯誤を繰り返しメカニズムを解明してくことは大変にやりがいがありました。またメンバーとディスカッションすることも多く、お互いを高めあうことができる環境でした。現在の研究所における業務においても、研究室で新しいことにチャレンジしたという経験が非常に活きています。

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