基礎研究を推し進める東京理科大学の優れた研究所を訪ねて(第11回) 研究推進機構 生命医科学研究所(6)【融合研究推進部門編】

生命医科学研究所の融合研究推進部門を訪問し波江野洋准教授と小川修平講師にお話を伺った。

【融合研究推進部門のミッション】
学内の他学部、他の研究機関、および産業界と連携して、分野横断的な高度な共同研究を促進します。

波江野 洋 准教授

「波江野洋 研究室」(研究室HP: haenolab.jp)
私たちの研究室ではがんを代表とする疾患について、確率モデルや微分方程式系によって病態を表現して疾患原理の解明を目指しています。近年の生体内情報計測技術とコンピュータ技術の発展とともに、データに基づいた実証可能な数理モデル研究が現実に行われつつあります。疾患原理を数式で解き明かすことによって、創薬のターゲットや予後予測、最適治療戦略の提示を目指します。
正常な細胞から突然変異によって異常な細胞が生まれ、その細胞が体内で増殖していき、転移などを起こしながら臓器を機能不全に陥らせることが、がんの成り立ちから発病に至る過程と言えます。私たちの研究室では、この過程をがんの体内での進化として捉え、進化の研究で用いられてきた集団遺伝学の数理解析手法を主に応用することで理論研究を実施しています。また、がんといっても、発生する臓器ごとに形態や突然変異の種類も異なり、注目する時期によって転移や薬剤耐性というように解決すべき課題も変化していきます。このような広大な研究領域の中で、臨床データを扱う研究者と共同研究をすることで、1つ1つの事案について解決していきます。例えば、「膵臓癌が診断される時に転移が起こっている可能性を腫瘍の大きさから推定する」という問題では、Johns Hopkins病院の共同研究者から計228例の臨床データの提供を受けました。臨床データによって推定したモデルパラメータを用いて、腫瘍サイズが4cm以上の場合、ほぼ100%の確率で転移が存在していることが示唆されました(図、Haeno et al. Cell 2012)。今後はソフトウェアやツールの開発によって、数理モデル解析を誰でも簡単に実行できるような環境を作っていくことも課題だと考えています。


「小川修平 研究室」

小川 修平 講師

小川研究室では、獲得免疫応答の制御において中心的な役割を担うT細胞の活性化や機能発現を調節する補助シグナル分子の役割に関する研究を行っています。
免疫システムは病原体や異物を排除するなど健康の維持に必須なシステムです。何らかの要因により免疫応答が適切に働けなくなると、感染防御が弱まったり、過剰な反応が起こりアレルギー状態に陥ったりすることになります。免疫には、自然免疫と獲得免疫があり、T細胞は獲得免疫応答の制御に中心的な役割を果たしています。このT細胞の機能発現には、抗原特異的なシグナルが必須ですが、補助シグナル分子を始めとする他の分子を介するシグナルもT細胞の反応性の調節に必須です。そこで、私たちの研究室では、T細胞に発現する分子の様々な変異マウスを作製し、分子メカニズムを解明すると共に、T細胞の機能を人為的に制御可能な方法を研究しています。また、京都府立大学織田昌幸教授との共同研究で、補助シグナル分子CD28細胞内領域と細胞内アダプター分子との結合様式をX線構造解析で明らかにしました。この研究の発展として、CD28シグナルに影響を及ぼす可能性のある化合物をドッキングシミュレーションにより複数選択してきています。これら化合物の中にはマウスT細胞の増殖を増強するものもあり、このT細胞増殖増強作用が抗腫瘍免疫応答を増強することに繋がるのではと期待し、腫瘍に対する免疫応答がどのように変化するか検討しています。
また、本研究部門の様々な分野の研究を融合し推進するというミッションの一つとして、生命医科学研究所に遺伝子改変動物作製ユニットを置き、遺伝子改変動物作製等の研究支援を行っています。具体的には、ゲノム編集法を用いた遺伝子欠損マウスの作製の他、受精卵の凍結保存や、凍結受精卵からの復元、マウスのクリーニング(SPF化)を行っています。これまで、学外および学内の教員からの依頼を多く請負、行ってきました。今後も本学の研究を加速するため本支援を充実させていきます。

関連記事

ページ上部へ戻る