化学、材料科学、生命科学等極めて多岐にわたる研究分野をカバーする「赤外自由電子レーザー研究センター」

東京理科大学には、国際的に高い評価を受けている研究機関が数多くある。大学の誇る研究所をシリーズで紹介している。第3回目は赤外自由電子レーザー研究センターを訪問し築山光一センター長にお話を伺った。

築山光一センター長(右)と川𥔎平康博士

■センター設立の背景と目的

【赤外自由電子レーザー本体】

赤外自由電子レーザー研究センター(略称:FEL-TUS)は、科学研究費学術創成研究による研究プロジェクト「赤外自由電子レーザーの高性能化とそれを用いた光科学」の拠点として、1999年野田キャンパスに設置された。自由電子レーザー(FEL:Free Electron Laser)それ自体の開発研究は高エネルギー加速器研究機構等で行われているが、FEL-TUSは中赤外光源としてのFELの特長を活かした光利用研究を最重点課題として遂行する施設の一つである。

■FEL-TUSの主な特徴とその応用分野

(1)5~10 μmにおいて周波数可変である。このスペクトル領域は、分子内の結合様式の差異によって吸収スペクトルが顕著に異なる「指紋領域」と呼ばれる領域を含んでいる。すなわち赤外自由電子レーザーによって、ある特定の分子のある特定の振動モードを選択的に励起することができる。
(2)ピコ秒パルスを発振する高出力パルス光源である。この特性によってFEL-TUSは様々な非線形光学効果を誘起することができる。
(3)ほぼ完全な直線偏光性を有する。この特性を利用すれば、表面における分子の吸着方向等を調べることができる。
多くの物質は振動励起に基づく強い吸収帯を有するので、ほとんどすべての物質を照射対象として設定することができ、FEL-TUSは中赤外励起過程に後続する現象を様々な分析法を通じて追跡することにより、その用途は先端計測技術開発から分子科学、材料科学、生命科学まで極めて多岐にわたる。
生命科学への応用のトピックスとして、FELによるアミロイド線維の光分解効果が見出された。アミロイド線維は、アルツハイマー病などの難病の原因物質であり、β-sheetと呼ばれる特殊な構造がシート状に重なり合って形成されている。これを通常の生理的条件下で分解することは困難であるが、FELをある特定の周波数に調整して照射すると、アミロイド線維の構造が解きほぐされて元のネイティブ構造にリフォールディングすることが認められた。今後、アミロイド線維を蓄積している病理組織へFELを照射すれば、病気の改善につながる治療効果などが期待されている。
平成28年度から、放射光施設とレーザー施設間のネットワーク(光ビームプラットフォーム)構築を通じたイノベーション創出を目指すとともに、当研究センターがこれまで培ってきた学術的知的資産およびFEL光利用の技術的ノウハウを学外に提供することにより、産業界、大学・独立行政法人等への共用を促進し、①新規計測技術の開発、②化学・物理学・分子科学分野、③材料科学・物性科学分野、④生命科学分野における基礎および応用研究を推進している。現在国内の主要な赤外自由電子レーザー研究施設(大阪大学産業科学研究所、京都大学エネルギー理工学研究所、日本大学電子線利用研究施設)との共同研究を推進しているが、装置の老朽化等の理由により当施設は2021年3月をもって閉鎖の予定である。

■応用事例

東京理科大学
総合研究院 川﨑平康博士

【赤外自由電子レーザーの特徴とその応用分野】

遠赤外波長で発振するテラヘルツ自由電子レーザーを用いてアルツハイマー病などの原因となるアミロイド線維の凝集構造を劇的に解離することに成功した。また木質系バイオマスのセルロースに含まれるグルコシド結合を近赤外波長と中赤外波長の自由電子レーザーを用いて分解し、グルコースを得ることに成功した。以上のような基礎科学的な知見を基盤として、将来的には高強度赤外光源による実用化が期待される。後者の研究内容は、本学から6月29日付でプレスリリースされました。

取材記 : 先端計測技術開発から生命科学分野に至る基礎研究から応用研究まで、幅広い分野で応用される東京理科大学ならではの研究が進められていると認識し、研究所を後にした。

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