アナログとデジタル、リアルとバーチャルの関係性、境界線に着目し、様々な領域で活動

略歴
メディア・アーティスト、インタラクションデザイナー、プログラマ、DJ。ライゾマティクス代表

私は46歳になった今でもプログラミングを駆使して様々なプロジェクトを行い世界各国のフェスティバルや美術館で作品を発表しています。企画制作が大半を占めますが、それ以外は日々C++やpythonのコードを書いてセンサのデータを映像や音に変換するツールを開発するなどエンジニアリングが中心です。今思うと数学科に進学したことは自分の未来を切り開くために最高の選択だった様に思います。残念ながら私は典型的な落ちこぼれの大学生で、DJやバンド活動に没頭してしまったため学業では思う様な成果を出すことは出来ませんでした。しかし、理科大の厳しい進級制度のおかげで数学を一通り学ぶことができ、それによって線形代数や微分積分など数学的素養が必要となる場面に出会しても怯むことなくチャレンジを行ってきました。3DCGや音楽のソフトウェアを自分で開発出来るという強みがあったので、他のクリエイターが取り組むことが出来ない独自性の高いプロジェクトを実現出来たと思います。また、アート作品で必要とされる物事を抽象化、概念化する技術に関しても、数学を通じて知らないうちに習得していた様に思います。結果論ではありますが、今やっている活動の根幹を大学時代に作れたことはやはりラッキーでした。
しかし、思い返せば大学時代には自分がやりたいと考えていた表現を理解してくれる人は周りにほとんどいませんでした。インターネット黎明期ということもありSNSもまだ存在せずニッチな趣味趣向の人と繋がることが難しい時代でした。数学科というストイックな環境では、数学を表現に応用するという考えすらご法度だった様に思います。そんな中、幾何学の阿部先生は少しだけお話を聞いてくださいましたが、他の教授は人生かけて真面目に数学をやりなさい、という非常にストイックな対応。また、同級生でも理解してくれるのは1人だけという状況でした。それが理工学部建築学科に通っていた齋藤精一で一緒にライゾマティクスを起業した友人です。
卒業後の進路を決めるタイミングでは大学院進学という選択肢もあり最後まで悩みました。当時プログラムを用いて作品を作り始めていたこともありエンジニアリングに関わる仕事を選びました。エンジニアの職を手にして巨大なシステムの一部を設計開発する業務に携わっていましたが、数学科の同級生に声をかけてもらいWebコンテンツ制作会社に転職しました。ちなみに、その友人はもう一人のライゾマティクスの創業者千葉秀典です。個人のセンスとスキルを発揮できる場所に身を置きたかったので転職したのですが実力が足りず、また今で言うところのWeb系のスタートアップ企業で経営が不安定だったためあっという間にクビになります。
その後ハローワーク生活を経てIAMAS(国際情報芸術アカデミー)という岐阜県立の学校に入学します。プログラミング技術を用いた作品制作を学ぶために、心機一転岐阜に引っ越してゼロからのスタートを切りました。そこで初めて表現を軸として活動する人たちと行動を共にしたのですが、まるで自分だけが一人取り残された様な感覚に陥って将来が一気に不安になったことを覚えています。IAMASの先生や同級生は考え方が柔軟であらゆる問いに対してユーモアのある解答を提示することに慣れていたため、お堅い思考回路の自分はなかなか馴染むことが出来ませんでした。入学してから数ヶ月のショッキングな体験は今の自分の活動に大きく影響を与えたと思います。そこから2年間、2004年3月に卒業するまで恥を捨ててがむしゃらに作品やデモを制作しました。
その後、しばらくは美術大学の非常勤講師を行いながらフリーのエンジニア、デザイナーとして生活をしていましたが30歳になったタイミングで起業します。その後はPerfumeのライブやリオオリンピックの閉会式などスケールの大きな仕事にも携わる機会に恵まれました。しかし、振り返ってみるとそのほとんどは学生時代に制作した作品やデモの発展版です。20年近く経過しても色褪せないアイディアと言うことも出来ますが、一方でコラボレーターの存在、特に私の場合は自分の技術やアイディアを作品に昇華するためには、演出家との出会い、コラボレーションが必須であったことに改めて気付かされます。皆さんも一期一会、出会いを大切に未来を切り開いていってください。

活躍の範囲
・坂本龍一、Bjork、OK Go、Nosaj Thing、Squarepusher、アンドレア・バッティストーニ、野村萬斎、Perfume、サカナクションを始めとした様々なアーティストからイギリス、マンチェスターにある天体物理学の国立研究所ジョドレルバンク天文物理学センターやCERN(欧州原子核研究機構)との共同作品制作など幅広いフィールドでコラボレーションを行っている。

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